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2022
06 / 03 (金)

2022
07 / 03 (日)

映画『冬薔薇(ふゆそうび)』公開 【現在は終了しています】

202206/3(金)~ 202207/3(日)

映画『冬薔薇(ふゆそうび)』公開 【現在は終了しています】

綺麗事じゃない真のリアルに衝撃!春を待って堕ち続ける人間と、厳しい冬に花開く美しい薔薇。阪本順治監督の最高傑作!

冒頭から、卑怯さ丸出しの喧嘩シーン。背後からの襲撃に、釘が刺さった木片で返り討ちにされ病院送り。のっけから思わず顔を覆うシーンだった。「一筋縄ではいかない映画が始まったぞ…」ゴクリと唾を呑んだ。主人公は、ひとことで言って「クズ」。大した度胸もないのに虚栄心から半グレとツルんで捨て駒にされ、肩書き欲しさに入学した服飾専門学校の授業はボイコット。学費に困れば詐欺まがいのデート商法で女から金をむしり取り、その場の欲求を満たすだけのコンビニエンスな人生。努力が嫌い、タナボタ的なラッキーを願って生きる「大きな子供」が更生することは可能なのか?その痛々しさは相当なものだった。

演じるのは、数年前まで飛ぶ鳥を落とす勢いだった伊藤健太郎。絶好調だった2020年に「ひき逃げ事件」を起こし、素行の悪さも報道されて表舞台から消えた彼に「再起のチャンスを!」と企画され、阪本順治監督が引き受けた形だ。監督は、脚本執筆前に伊藤と面談し、生い立ちや家族関係、人生経験、これまでのありとあらゆる行動と思考を聞き取って、この脚本を書き上げたという。何よりこの作品の凄さは、安易な「再生物語」にしなかったこと。「一度堕ちてしまった人は、並大抵のことでは浮上できない」その現実を、鞭のように振るう荒々しさは、伊藤への厳しい叱咤激励とも取れる。「耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、心の中で囁く悪魔を祓うことが、果たしてか弱きキミにできるだろうか?」それはもちろん観客への問いかけでもある。それと同時に描かれる周囲の人々の人生。中でも純の両親の「子どもの愛し方」が、私には深く深く突き刺さった。親子のすれ違いは悲しい。でも愛情を伝えるって意外に難しい。市井の人々の「痛み」が、心の隙間にズイッと入り込む恐るべき傑作!


港に停泊する巨大な作業船。乗組員の高齢化や、資金繰りの問題に頭を抱えながらも、なんとか会社をやりくりする夫婦。彼らの一人息子の純は「服飾デザイナーになる」と啖呵を切って出てゆき、金の無心のほかは音信不通の親不孝者だ。一方、「船を継げ」とひとことも言わない親に妙な苛立ちを覚えながら、なんとか虚栄心を保って肩で風をきって歩く純の人生は、悪い方に転がるばかり。バイトすらロクにしたことがないまま20代も半ばに差し掛かり、半グレの下っ端としても中途半端。薄っぺらな言葉で女を口説いて金を引き出しても長くは続かない。愛情や優しさを掴み損なうたび、全てを人のせいにして逃げ、次の安易なアイデアに希望を見出しては、失敗して投げ出す。周囲の人々が、着実に「自分」をアップデートする中で、ただ漠然と「凄い自分」を夢想する彼の人生の痛々しさがあまりにリアルで、その現実を切り取った阪本順治監督の覚悟に、伊藤健太郎の勇気に唸った。小林薫、余貴美子、石橋蓮司、永山絢斗、毎熊克哉など、脇を固めた俳優たちの素晴らしさも格別!

©2022 「冬薔薇(ふゆそうび)」 FILM PARTNERS
※公開期間は目安です。全劇場での上映期間を保証するものではありません。

映画『冬薔薇(ふゆそうび)』公開

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